厚生労働省は10月30日の社会保障審議会介護給付費分科会で、2021介護報酬改定に向け居宅介護支援の見直しを議論しています。居宅介護支援の基本報酬については、2006年度の介護報酬改定で、1人あたりの担当件数が40件、60件以上の場合に報酬が減額される逓減制が設けられました。
介護支援専門員の担当数と業務内容の整備から生じた逓減制ですが、10数年経過し、居宅介護支援の経営の安定やケアマネジャーの処遇改善を図る観点から、ICT活用や事務職員配置等を要件に、基本報酬の逓減制を緩和する案が提案されました。今回はこの居宅介護支援費に着目していきます。
居宅介護支援費の算定状況
2019年4月サービス提供分の請求事業所のうち、居宅介護支援費Ⅰは99.9%の事業所で算定されています。
介護支援専門員の1人当たりの担当利用者数
次に介護支援専門員の1人当たりの担当利用者数を見ていきます。老健局振興課特別集計や(株)三菱総合研究所の調査によると、要介護で1人当たり約25人、要支援で約6人、合計31人となっています。
分布を見てみると、事業所全体では30人未満が43.0%、30人以上40人未満では42.7%となっています。40人以上は14.2%となっています。この分布を見てみると概ね40人でおさえている状況ですが、地域によると40人を超えて担当せざるを得ない地域もあるのではないでしょうか。少ない介護支援専門員でその地域の利用者を支えているのではと考えてしまいます。
しかし下図を見てみると一概にそうは言えない状況もあるようです。この下図を見るまでは、介護支援専門員の常勤人数が少なければ、多くの利用者を担当せざるを得ない状況かと思っていました。
しかし(株)三菱総合研究所の2018年調査報告によると、介護支援専門員の常勤換算数が3人未満と少ない事業所は、担当数30人未満の割合が高くなっており、介護支援専門員の常勤換算数が3人以上と多い事業者は、担当数30人未満の割合が低くなっております。
あれ?介護支援専門員が少なければ、仕方なく多くの担当を持たないといけないのでは。現実にはそのような状況ではないようです。想像とは違いますね。全くの真逆でした。
居宅介護支援費の逓減制の緩和
介護事業経営実態調査では、居宅介護支援の収支差率が△1.6%と、前回調査よりも悪化しているとされています。
また、直近数年間、介護支援専門員の受験者数が激減していることから、居宅介護支援事業の運営は経営的にも人員的にも厳しさを増していると推測されます。
そこで、介護報酬改定に向け、経営改善や人材不足への対応策として、介護支援専門員の担当件数の上限引き上げや逓減制の緩和を日本介護支援専門員協会の柴口里則会長は要望しました。
こうした背景を踏まえ、厚労省はICT活用や事務職員配置等、一定の要件を満たす場合に、報酬の逓減制の緩和を検討することとしました。
まずは現行の居宅介護支援費をご覧ください。
この現行に対して、ICT活用や事務職員配置等を実施すると介護支援専門員の業務効率化が図れ、担当利用者数も緩和しても良いのではないかという議論です。本当にICT活用や事務職員配置によって業務効率化が図れるのでしょうか。
事務職員の配置とICT活用によって、介護支援専門員の業務は効率化されるとのデータです。上記のデータによって逓減制緩和の骨子が2021年1月18日の介護給付費分科会でまとめられました。
基本報酬が引き上げられ、40件の上限も45件まで引き上げられました。これが経営状況と人員確保のクリティカルヒットになるのでしょうか。参考までに居宅介護支援事業所の経営状況を以下に示します。厳しい状況を打破できるのか。
賛否の声
出席した委員からは様々な声が挙がっています。
(大西秀人委員・全国市長会)
「ICT活用や事務職員配置等により、ケアマネジメントの質が担保される体制が整うのであれば、逓減制の見直しは妥当ではないか。そのために、導入経費等の支援策も検討してもらいたい」「小規模事業所では事務職員配置・ICT機器導入などが難しい。導入支援策を合わせて行ってほしい」
(濵田和則・日本介護支援専門員協会)
「人件費比率が高くなり、設備投資なども困難な状況がある。逓減制の緩和により、たとえば45件程度まで減額を受けずに担当できるようになれば、経営や処遇の改善につながる」「各種の研修や主任ケアマネジャー制度の創設、多職種との連携などで、ケアマネジャーの知識・技術は向上しており、従前に比べてより多くの利用者を担当できるようになっている」
(江澤和彦・日本医師会)
「逓減制を見直すためには『大儀』が必要。逓減制はケアプランの質を確保するために導入された経緯があり、経営状況が厳しいので緩和というのは本末転倒。まずは基本報酬の引き上げを考えるべき」
(伊藤彰久・日本労働組合総連合会総合政策推進局生活福祉局)
「ICT利活用がケアマネ業務に馴染まないとの声や、事務職員の行範囲を明確にしなければならないとの声もあり、そうした点への配慮が必要」
(武久洋三・日本慢性期医療協会)
「利用者の状態改善に向けて一生懸命に取り組むケアマネが評価される仕組みを考えるべき」
まとめ
介護支援専門員の業務過多にならないように配慮し、居宅介護支援事業所の経営状況に光が差すような改定を望みます。私個人としては、ケアプラン作成をAIに任せ、3案くらいの最適なケアプランから利用者が選択できるようなシステムを構築することで、介護支援専門員の業務の効率化が図れ、現在よりも多くの利用者担当ができ、AIケアプランに報酬がつくようになれば経営的にも明るくなるのではないかと思っています。すでにAIケアプラン作成への道は進んでいるようです。次回はこのネタをまとめようかと思います。