生活をしていく中で「交渉事」は必要不可欠なものです。仕事においては言うまでもありませんが、友人にお願い事をする時や配偶者に買いたいものをねだる時は、「交渉」をしているかと思います。上手くいった交渉やボツになった交渉を振り返ってみると法則があるように思えます。経験上、柔軟な姿勢で挑んだ方が良い結果に繋がることが多く、「こうしよう」と柔軟な姿勢出なかった時は、思い描いた結果にはならなかった思い出があります。
そう。交渉は「こうしよう」ではなく臨機応変に対応した方が良いのです。
「こうしょう」は「こうしよう」ではなくりんきおうへん。平仮名で書くと、より一層迷言感が強くなりますね。
チャルディーニの法則
チャルディーニの法則とは、アメリカの社会心理学者であるロバート・B・チャルディーニ氏が提唱した「人の行動に影響を及ぼす6つの要因とその法則」のことです。マーケティングで応用されることがあるこの法則は、チャルディーニ氏の著書である「影響力の武器」に詳細が書かれており、「どのような心理がはたらくと人は行動を起こしやすいのか」について心理学の側面から解説しています。
交渉における成功のポイントは、「相手が決断すること」です。そしてその決断が自分が求めている方向での決断であれば、その交渉は成功したということになります。そのためには、相手の行動に影響を与える要素や心理を理解しておく必要があります。チャルディーニの法則は「相手にYESといってもらうための6要素」を説明しています。
チャルディーニの法則の6要素
①返報性
②一貫性
③社会的証明
④好意
⑤権威
⑥希少性
上記6つの要素が揃えば相手の行動に影響を与え、「購買」や「成約」という決断に導けるというのがチャルディーニ氏の提唱する心理法則です。では1つ1つ見ていきましょう。
①返報性
親切をされたらお返しに何か親切を返さなければならないと感じること、いわゆるギブアンドテイクのことです。半沢直樹でいう「ほどこされたら、ほどこしかえす」ということですね。人は親切を受けたにもかかわらず、何もせずにそのままにしておくことに気まずさを覚えます。日本の文化で言うと、お礼返しであったり、思いがけない方からお中元やお歳暮をいただいたら慌てて送り返す、なんてこともこの返報性ですね。
返報性を活用する時の第1歩目はこちらからです。こちらにとっては小さな妥協でも、相手から大きな譲歩を引き出せれば成功ですね。第1歩目をどのような形で示していくかが重要なポイントかと思われます。
②一貫性
人の行動心理として「一度決定を下すとそれ以降はその決定を正当化するように行動しがちになる」という行動心理があります。人は「自分の考えや行動をすぐに変える人は信用できない」と感じる深層心理から生まれてくる行動心理です。
具体的には、先に大枠の目的に合意してもらい、あとから細かい条件を交渉するという戦略のことです。相手が受けてくれそうな簡単なお願いをしてから次に本当のお願いをする。最初に相手のイエスを引き出してから本来のお願いをする。ということです。しかし、注意しなければいけないことは、大枠の目的に合意してもらってから次の交渉までの時間やタイミングです。あからさまに直後に次の交渉をしてしまうと、「最初の話しはこのためだったんだ」と、相手にやり口が汚いと思われてしまい、その後の交渉が決裂してしまうこともあり得ます。
③社会的証明
第三者からの評価・評判を自身の判断基準にしてしまう心理状況のことです。他人の目を気にしすぎな日本人は、特にこの社会的証明に影響されると言われています。自分自身の判断に自信があるかないかによっても左右されるため、活用する時は相手の性格を見極めてから活用するといいでしょう。
具体的には、他で導入や購入している実績があること、人気があること、第3者からの評価が高いこと等が交渉のポイントです。この際、第三者に出すものは、相手の立場と類似した第三者であればあるほど参考にされやすいです。
④好意
これは言葉のとおり、好意を持っている人に頼まれるとYESと言ってしまいがちになることです。好意的(友好的)な環境を作ってから交渉を始めると良いとされています。ビジネスの場においては、交渉前に共通の趣味であるゴルフを共にラウンドするとか、懇親会という名目でお酒の場を共にする等で活用されています。単に時間や場を共にするということだけでなく、お互いに自己開示ができる関係性になることが大事であり、より多くの類似性を見つけることができれば交渉の第1段階は成功したと言えます。
⑤権威
肩書きのある人、社会的に影響力のある人からの言動や行動は正しいとする心理状況のことです。人は社会的に認められる人の発信であれば、真偽を確かめずとも「正しいもの」と判断しがちです。ニュースのコメンテーターや書籍の帯紹介等は、肩書きで選ばれていることもこの法則に合致しています。
具体的な活用方法では、自分の持っている権限を大きく見せることができれば、交渉においても発言を信用されやすくなります。名刺の肩書きを増やすことや交渉用の役職名を自社内で作る等が挙げられます。
⑥希少性
珍しいものや残り少ないものに価値を見出す心理状況のことです。「期間限定」や「限定○個」など、常に得ることはできないものに対して人は心が惹かれるものです。手に入りにくくなるとその機会がより貴重なものに思えてきます。新型コロナウイルス感染症のマスクはその最たるものでしょう。
具体的には、条件を提示する際に期限を設け、期限を過ぎると他に流れてしまうまたは価格が上昇してしまう等、今しかできないからという理由を付けることが希少性を高める効果があります。中古車販売等はこの交渉がベースとなっているようです。
交渉「こうしょう」は「いましよう」ではなく「つぎしよう」
上記に挙げたチャルディーニの法則は、計画的に考えられた交渉戦術です。しかしながら、準備は万端にするものの、実際の交渉事は思いとおりにいかないのが常です。交渉において重要なことは、単発勝負で考えないことです。最終的に自分の交渉が上手くいけば成功ですので、慌てず今回駄目でも次回には、という柔軟な姿勢で挑むことが大切です。今しかないので、という自身の余裕のなさは相手に悟られてしまいます。相手も自分を見ています。足元を見られないように余裕を見せるくらいがちょうどよいかと思います。
自分の要求を通すことだけが交渉ではない
合意に至ることができなくとも、相手の信頼を得ることができれば、次の交渉や全体として見たときにメリットになることも多いはずです。また、信頼形成による他のコストの低減等にもつながります。目先の交渉事ではなく、大局的な視野を持つことも必要となります。