特定処遇改善加算は介護業界の人員不足のカンフル剤となり得るのか?

2019年10月に新設された介護職員等特定処遇改善加算。漢字が多すぎて難しそうですね。要は、「介護職員等の賃金やその他処遇を改善させている優良事業所には加算をつけますので処遇改善に努めてください」という厚労省のメッセージです。人手不足の介護業界にとってはありがたい加算ですが、どのくらいの算定率になっているのでしょうか?新しく始まった特定処遇改善加算についてまとめていきます。

介護職員の平均勤続年数(職種別・年齢別)

介護職員の平均勤続年数について職種間および産業計と比較すると、30~34歳までは概ね変わりはありませんが、35歳以上は下回っています。35歳を上回ると身体的に辛くなってくるのでしょうか。

介護職員の平均勤続年数(平成19年VS平成30年)

介護職員の平均勤続年数は、平成19年度は3.1年であったのに対して、平成30年は6.7年と倍増しています。平均勤続年数は延びていますが、処遇の改善はどうだったのでしょうか?

介護職員の賃金の推移

平成26年から令和元年までの介護職員の賃金の推移を見ていきます。平成26年は全産業平均35.7万円に対して介護職員は25.6万円とその差は10.1万円となっています。一方、令和元年は全産業平均37.3万円に対して介護職員は28.8万円とその差は8.5万円に縮まっています。しかしながら、介護職員の賃金は全産業平均と比較するとまだまだ大きな開きがあります。

特定処遇改善加算とは

そこでさらなる処遇改善を狙って、「特定処遇改善加算」2019年10月に新設されました。算定要件は大きく3つに分けられます。

1.従来の処遇改善加算Ⅰ~Ⅲのいずれかを算定していること
2.職場環境要件について「資質の向上」「労働環境・処遇の改善」
 「その他」の区分で、それぞれ1つ以上取り組んでいること
3.賃上げ以外の処遇改善の取り組みの見える化をホームページ等で
 行っていること(2020 年度から要件)

国も公費1,000億円程度を投じるように新しい経済政策パッケージを打ち出しました。経験・技能のある職員の介護離れを防ぐために、勤続10年以上の介護福祉士を基本として、月8万円か、年収440万円を超える要件を出しています。

深刻な人手不足が問題となっている介護の現場では介護職員を新たに確保すること、長く働いてもらうことが課題となっています。今回の新しい加算は現場で働く介護職員の賃上げをして処遇をよくする事が一番の目的です。従来の処遇改善加算に加えて、介護の労働現場をより良くして『介護離職0』を目指すことが趣旨となっています。また、この新たな特定処遇改善加算は、同じく2019年10月から増税した消費税が財源となっています。

加算配分についてのルール

まず職員を以下の3グループに分けます。

①経験・技能のある介護福祉士資格を持った職員

②その他の介護職員

③その他の職種

そして以下のルールに基づいて配分を決めます。

【ルール】

  ①の職員のうち一人以上は月8万円もしくは年収440万円まで賃金アップさせること。

  処遇改善額が、①は②の2倍以上、③は②の2分の1以下に設定すること。

文章で見ると難しく感じますが、図にすると以下のようになります。

経験や技能の10年の判断は事業所に任されています。勤続10年以上を基本としてはいますが同じところで10年働いているということじゃなくても、事業所の判断によってトータルの経験が10年でも加算が認められます。

本加算の算定率

特定処遇改善加算は、現行の処遇改善加算にプラスされる加算となっています。

職員にとっても職場にとってもプラスになる本加算の算定率はどの程度なのでしょうか?

初めての請求対象となった19年10月分は53.8%、同11月分は56.4%、同12月分は57.8%と増えていますが、伸びは大きくはありません。同12月分で請求があった介護施設は全国14万6809ヵ所、算定率は合計57.0%(介護予防サービスを除く)となっています。

施設区分別の算定率をみると、介護老人福祉施設(84.9 %)、短期入所生活介護(81.0%)、地域密着型介護老人福祉施設(80.7%)が高い算定率となっている一方、介護療養型医療施設(29.1 %)、地域密着型通所介護(33.2%)のように全体の算定率を下回る区分も見受けられ、施設間に算定率の差が大きい加算となっています。

介護業界の処遇改善にカンフル剤となるのか

特定処遇改善加算は、経験のあるベテラン介護士や、リーダークラスの介護士が重視された加算です。長く働いていると給料がアップするということはモチベーションにも繋がりますし、後輩指導にも繋がるため、良いサイクルを生み出す狙いがあるかと考えられます。

この新しい特定処遇改善加算によって長く介護の現場で働いてきた職員の賃金を向上させ、全体のベースアップにつなげることで、これからの介護業界の労働環境はよりよくなっていくのでしょうか。能力がある人が認められるということはとても重要なことですし、給料に反映するとモチベーションアップにもつながります。

そして2025年には団塊の世代が75歳以上となり、高齢化社会がさらに進みます。介護業界ではすでに慢性的な人材不足と言われていますが、この2025年に向けてさらに人材を確保しなければなりません。そのためには介護業界のイメージアップが必要ですし、処遇改善は必須かと思われます。この特定処遇改善加算にとどまらず介護業界の処遇の改善はさらに進んでいかなければ、介護業界の人員不足は解消されないのではないでしょうか。

頑張れ!介護業界!